インボイス制度でミュージシャンの所得が減る?!インボイス発行事業者になるメリット・デメリット
まず、大前提としてわたしはインボイス制度には反対です。
だからといって何も対応しないと自分の首を自ら閉めることになるので、自分なりに調べて対応できることをやっていこうと考えています。
【結論】インボイス制度が始まると減収は避けられない
インボイス制度が始まるにあたって、いままで以上にお金の勉強をしました。
そこでわかった残酷な事実は今まで免税事業者であったフリーランスミュージシャンの収入が下がるのは避けられないということです。
理由は2つあり、免税事業者のままでいても課税事業者になっても消費税の納税から免れないということと、免税事業者でいることを選択した場合に将来的に仕事がなくなる可能性があるということです。
免税事業者になっても消費税の納税から逃れられない?!
免税事業者は将来的に仕事がなくなる?!
信じられないようなことですが、勉強すればするほどこれが現実になると現実味を帯びてきました。
Yahooニュース「Zガンダム」エマ役・岡本麻弥さんがインボイス制度中止へ涙の訴え
先日、「機動戦士Zガンダム」のエマ役の声優として知られている岡本麻弥さんらがインボイス制度の中止を訴えて涙ながらに会見を行いました。
この記事の中の、「(免税事業者、課税事業者の)どちらも正解じゃないボタンを押せ、と言われている。」という言葉がとても印象的です。
しかし、どっちも正解ではないとわかっていながら、私たちは免税事業者か課税事業者のどちらかのボタンを押さなきゃいけません。
後悔をしないためにも、一度しっかり向き合って勉強してみましょう。
次のセクションからは少し難しい内容もありますが、頑張って読んでください!
そもそもインボイス制度とは?
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」と言います。
消費税のルールが変わり、「インボイス(適格請求書)」という新しい様式の請求書を受け取らないと、その請求書のために支払った消費税を、納付する消費税の計算から差し引けなくなりますよ〜という制度です。
消費税の仕組み
消費税の計算から差し引くと聞いてもよくわからないと思いますので、少し消費税について説明したいと思います!
まず、消費税は間接税であり、事業者に課税しているのではなく納税義務者は消費者になります。
AさんがB商店から2,000円の商品Cを購入した場合、AさんはB商店に税込価格2,200円を支払います。
このうち2,000円はB商店の売上ですが、200円はAさんから預かっている消費税であり、B商店がAさんに代わって納税します。
この200円を簿記では仮受消費税と言います。
このように税金を負担する人(Aさん)と実際に納税する人(B商店)が違う税金のことを間接税と言います。
また、消費税は二重に課税されないような仕組みになっています。
先ほどの商品Cを卸売店DからB商店が1,000円で仕入れていた場合、B商店は卸売店Dに税込価格1,100円を払っています。
しかし、この場合も1,000円は商品の購入にかかる価格代金ですが、100円は消費税を卸売店Dに預けています。
この100円のことを簿記では仮払消費税と言います。
年間を通してこのような取引がたくさんあり、仮払消費税も仮受消費税も溜まっていきます。
そして年に一回、所得税と同じように消費税も確定申告をして仮受消費税から仮払消費税を引いた額を納税します。
このように消費税は一つの商品に対して二重に課税されない仕組みになっています。
ミュージシャンはモノではなくて技術を売る仕事だからイメージしにくい!
課税事業者と免税事業者の消費税
例えば、1万円の仕事をしたらフリーランスミュージシャンの多くは10,000円+消費税(1,000円)を請求しますよね?(説明を簡単にするため源泉徴収の説明は置いておきます。)
いままで何気なく請求書を作っていたとは思いますが、その1,000円というのは消費「税」です。
消費税は税金です。
本来は国や地方自治体に納めるべきものなのですが、前々年の年間売上が1,000万円を超えない事業者は免税事業者にあたり、消費税の納税が免除されているので、その消費税を自分の収入にできます。
このように得られた本来だったら税金として納めるべきだった収入を益税と呼びます。
しかし、インボイス制度が始まり免税事業者が任意で課税事業者になると、益税はなくなり、消費税を納税することになります。
取引先はミュージシャンからインボイスをもらいたい
インボイス制度が始まると、取引先は私たちミュージシャンからインボイス(適格請求書)をもらいたいと考えます。
というのも、インボイス(適格請求書)を発行してもらわないと消費税納税の計算をするときに差し引くことができなくなってしまうのです。
そうなってくると、取引先は消費税分の価格を私たちミュージシャンと国の2か所に重複して支払わなくてはいけなくなってしまうのです。
取引先の立場を考えたらそんなの意味わからないよね!
そうなると、取引先にとって免税事業者との取引は損となるため、免税事業者との取引を控えたいと考える可能性が出てきます。
そうすると、免税事業者のままでいると仕事が減る可能性があるのです。
インボイス制度でミュージシャンの所得が減る理由
いままでの話をまとめると、インボイス制度が始まると2つの理由でミュージシャンの所得が減ることがわかります。
ひとつ目は、課税事業者になることで消費税納税の必要が出てくること。
ふたつ目は、免税事業者でいることで仕事自体がなくなる可能性があること。
インボイス制度が始まる10月以降に免税事業者のままでいると仕事が減る可能性があり収入が減る可能性があり、課税事業者になると益税がなくなり消費税として納税することになるので最大で売上の10%の収入が減ります。(実際には令和8年までは2%程度です。)
いろいろな取引先からインボイス制度開始に伴うアンケートが送られてきている
現在、わが家にはたくさんの取引先からインボイス制度に関するアンケートが送られてきています。
その手紙をきちんと読んでいくと、大きくわけて2種類の対応がありました。
その1:ミュージシャンにインボイス発行事業者になってもらいたい
手紙にはインボイス登録事業者になるための手順やインボイス番号が発行されたら通知して欲しいという内容のことが書かれています。
国税局が出しているインボイス制度に関するチラシが同封されていて、インボイス制度に登録すると課税事業者になるなどの大事なことがとっても小さく書いてあるので、読み落としてしまうことも多いかもしれません。
その2:免税事業者のままでも構わないが消費税分は支払わない
こちらの手紙にはインボイス制度開始に伴い、免税事業者のままでいる場合は10月以降の支払いは消費税分を差し引いて支払うと書いてあります。
つまり、「いままでより支払額を10%減らします。」と書いてあるのです。
免税事業者であっても消費税納税からは逃れられないのです。
ヤマハ音楽教室などの講師はこのような対応になるとちょっと前にSNSで話題になっていたので、知ってはいましたが実際に手紙を受け取るととても動揺しますね。
つまり、免税事業者のままでいるべきなのか?課税事業者になるべきなのか?
ここでみなさんが悩むのが「その2」の対応だと思うのですが、こちらは対して大変ではありません。
ミュージシャンが免税事業者でいることを選択したとしても報酬が10%減るだけで仕事自体が減るわけではありませんし、消費税納税のための事務作業も増えません。
ミュージシャンが消費税納税しなくていいように取引先が納税しておいてくれると言っているようなものです。
もちろん収入が10%も減るのは小さい問題ではないですけどね!
もちろん強制的に消費税が引かれてしまうので節税の余地がなくなってしまいますが、そのために税理士を雇ったり自分で勉強する必要がないので生活ができなくなる心配はないでしょう。
ちなみに、この様な対応は「独占禁止法」などの法律に触れる可能性があります。ですのである程度交渉の余地はありますが…実際にはどの様な対応になるかまだわかりません。
問題なのは「その1」の対応です。
こちらは、インボイス発行事業者に登録することが前提で書かれています。
この通知を無視して免税事業者のままでいた場合に10月以降の取引がなくなる可能性があるのです。
実際にはミュージシャンという仕事は特殊なので「この人に演奏してもらいたい!」と思ってもらえれば仕事がなくなることはないでしょう。
しかし、演奏技術は関係なく「経理上、対応ができないので取引ができない」という可能性が出てくることも否定できないのです。
実際には制度が始まってみないとどうなるかわからない、というのが事実なのです。
知っておきたい簡易課税のこと
ここで、少し話はそれますが消費税の簡易課税制度も知っておくべき必要があるので説明しておきます。
消費税には一般課税と簡易課税があります。
一般課税は前述した消費税の仕組みで説明したとおり、で、仮受消費税から仮払消費税を引いた額を納税する制度です。
簡易課税は事務作業を減らすために設けられた消費税に関する特例です。
仮受消費税に業種ごとに設定されたみなし仕入れ率をかけた金額を納税します。
簡易課税は売上が5,000万円以下の事業者のみが利用できる制度です。
簡易課税が及ぼす「取引」への影響
取引先が簡易課税を選択している場合、ミュージシャンが免税事業者でも課税事業者でも消費税の納税額は変わりません。
つまり、いままで通りの取引ができます。
この場合、ミュージシャンは免税事業者でいた方が収入は多くなります。
しかーし!
取引先に「簡易課税を選択していますか?」なんて聞けません。
なぜなら、この質問を訳すと「あなたのところの売上は5,000万円以下ですか?」と聞いているのとほぼ同じだからです。
簡易課税は売上が5,000万円以下の事業者だけが選択できる制度です。
取引先から教えてもらった場合は問題ありませんが、こちらから聞くのは失礼ですよね。
簡易課税が及ぼす「納税」への影響
ミュージシャンが簡易課税を選択することも可能です。
商品を仕入れて、商品を売る小売業
材料を仕入れて、商品を作って、商品を売る製造業
は仮払消費税も多くなりますが、ミュージシャンのように仕入れがない職業は仮払消費税はほぼありません。
楽器や機材を買った時にかかる消費税を控除することも可能ですが、備品の購入の際に消費税と分けて記帳するのはとても手間です。
なお、ミュージシャンのみなし仕入れ率は50%になるので、よっぽど大量に備品を購入しない限り、一般課税よりも簡易課税の方が納税額が低くなる可能性が高いでしょう。
みなし仕入れ率は事業内容により変わってくるので、念のためご自身で確認をしてください!
課税事業者になるメリット・デメリット
課税事業者になるデメリットは消費税の納税が生じて、そのために税理士を雇ったり自分で勉強したりする手間や金銭的な出費があるということです。
なお、課税事業者になるメリットはありません!w
本当につらいですが、仕方なく課税事業者になる感じです。
- 消費税を納税する必要が出てくる
- 税理士を雇ったり、自分で勉強する手間と金銭的な負担
なし!w
免税事業者のままでいるメリット・デメリット
免税事業者のままでいるメリットはいままで通りでいいということです。
取引先が簡易課税を選択していた場合は消費税分が引かれることはありません。
簡易課税を選択している事業者も消費税の値引きをしてくる可能性はあります。
免税事業者のままでいるデメリットは、仕事がなくなる可能性があるということと取引先から消費税が支払われなくなる可能性があるということの2点です。
- 取引先から消費税分が支払われなくなる可能性がある
- 仕事が減っていく可能性がある
- 消費税納税のための事務作業がなく今まで通り
【まとめ】ミュージシャンができる対応策
最初に言ったとおり、わたしはインボイス制度に反対です。
できるのであれば廃止されて欲しいと思っていますが、もう決まったこととして動き出していると感じています。
考えられる限りでは、インボイス制度による減収は避けられません。
なるべく負担がない様に今の段階でミュージシャンができる対応策を考えました。
いろいろな条件で考えましたが、スタジオ・ツアー・音楽教室講師などを続けるためには将来的にインボイス対応が必須になるでしょう。
なぜならインボイス制度に対応していないと、将来的に仕事が自然淘汰されていく可能性が高いからです。
免税事業者のままでいられるのは圧倒的なカリスマ性のある人だけでしょう。
ですので、免税事業者のままでいるというのはあまり現実的ではありません。
しかし、音楽の勉強をしながら個人事業主としての経理の勉強をするのはとても大変です。
そこで皆さんに変わって対応策を考えました!
一つ目の対応策は、簡易課税を選択している音楽事務所の所属ミュージシャンになることです。
または、インボイス制度に対応した請求書を発行してくれる仲介業者が新しいサービスとして確立されるかもしれません。
どちらの場合も消費税とは別に手数料がかかってしまいますが、仕事が受けられないという最悪の事態は避けられる様になるでしょう。
しかし、そんな都合のいいものを見つけられるとは思えないので、あまり現実的ではありません。
もう一つは、インボイス登録事業者(課税事業者)になり、令和8年までは一般課税で申告し2割特例を受け、それ以降は簡易課税を選択する方法です。
個人的にはこちらの方法が現実的だと考えます。
インボイス制度を本格化するまでの経過措置として、令和8年までは2割特例があります。
2割特例とは、売上税額の2割を納税する特例で、インボイス制度をきっかけにインボイス発行事業者として新たに課税事業者になった人のみが対象です。
売上が税込330万円の人は6万円(消費税30万円の2割)を消費税として納税することになります。
税金が増えるのはもちろんいやだけど、6万円なら払えそう!
この制度は令和8年までの経過措置です。
令和9年以降は一般課税か簡易課税で計算して納税します。
大体、2割特例の2〜3倍くらいの納税額になると思う!
ですので、それまでにギャラの単価をあげておかないと生活が苦しくなってしまいます。
「インボイス制度の影響を受けそうな職業」を見る限り、問題なのはインボイス制度そのものよりも、「この種の個人事業主や下請企業を、発注者が安く使い潰し続けている業界構造」のほうではないでしょうか。… pic.twitter.com/Na5oKimN51
— 新田 龍 (@nittaryo) June 23, 2023
このかたがおっしゃっているとおり、インボイス制度が始まったら生活がままならなくなるほどの低賃金で仕事をしている状態があまり良い状態であるとは思いません。
業界全体で報酬をあげていく必要があると思います!
インボイス発行事業者になるべきか悩んでいる人は9月末までに!
インボイス犯行事業者になるか決めかねている人は9月末までには決心しましょう。
いままで説明してきたとおり、どっちを選択しても減収は避けられません。
「どっちがいいか」ではなく「どっちがマシか」と選ぶしかない制度です。
9月末までに登録をした場合は「やっぱ免税事業者のままでいいかも!」と思ったらすぐに止めることができます。
しかし、それを過ぎると2年間は免税事業者に戻ることはできません。
インボイス制度をもっと知りたいひとへ
インボイス制度についてはサイトやSNSで調べることはできますが、すっきり理解するにはこちらの本がわかりやすくておすすめです。
また、インボイス制度が始まったら確定申告でも適格請求書発行事業者番号を記入する必要が出てくるようです。
事務的負担がものすごく増えますので、今のうちにインボイスに対応した確定申告ソフトに慣れておくことをおすすめします。
わたしはマネーフォワードクラウド確定申告を利用しているよ!
日々の経理もカンタンです!
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ミュージシャン以外の人にも楽しんでもらえるコンテンツも増やして行こうと思います!
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